観測成果

宇宙の暗黒時代の終わりを告げる銀河の光

2002年5月7日

 ハワイ大学の天文学者を中心とした研究チームは、マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡とケック望遠鏡により、宇宙が誕生したころに生まれた銀河の姿を捉えました。

 以下の文章は、ハワイ大学のエスター・フー教授による発表英文の日本語意訳です。日本語意訳に関するお問い合わせは、ハワイ観測所広報室までお願いいたします。


プレスリリース 2002 年 3 月 6 日

問い合わせ先:
 Esther M. Hu
 Institute for Astronomy, University of Hawaii
 電話: 1-808-956-7190
 電子メール:hu@ifa.hawaii.edu

 Lennox L. Cowie
 Institute for Astronomy, University of Hawaii
 電話: 1-808-956-8134
 電子メール: cowie@ifa.hawaii.edu

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 ハワイ大学の天文学者を中心とした研究チームは、宇宙で星や銀河が形成され始めた時代の銀河を発見したと報告しました。

 「銀河が誕生し始めた直後の、宇宙の『暗黒時代』とこれまで考えられた時代に見つかったこの銀河では、星が連続的に誕生しています」と研究チームの代表者であるハワイ大学のエスター・フー教授は話しています。

 宇宙はいまから 140 ~ 160 億年前に起こったビックバンからはじまり、それ以来、今に至るまで膨張しながら冷えていったと思われています。ビッグバンから約 50 万年経った頃、それまで宇宙を構成していたプラズマは再結合して中性のガスとなりました。ガスの主成分は水素で、わずかばかりヘリウムが混じっています。再結合が起こった頃の様子は、宇宙マイクロ波背景放射として観測されており、宇宙の大規模構造を研究する手段として利用されています。暗黒時代と呼ばれている再結合後の5億年間に、低温のガスが集まって最初の銀河が形成されはじめました。新しく生まれた銀河やクエーサーから出る光が再び周囲の中性ガスを電離させて宇宙の状況を一変させた時に暗黒時代は終わりを告げました。

 これまでは、宇宙の初期を探るにはクェーサーを観測していました。太陽の 100 万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールがエネルギー源だと考えられているクェーサーは、極めて明るく輝いているためです。生まれたばかりの銀河は、通常の銀河の 1000 分の 1 の明るさしかありませんが、星が形成されるときに放射される"ライマンアルファ"と呼ばれる水素輝線は比較的強いため、この輝線を利用します。生まれつつある銀河は、ほとんどライマンアルファ輝線だけで輝いているので、この輝線のみを通すフィルターで観測すると際だって見えます。他のフィルターでは、このような銀河はほとんど検出できません。

 狭い波長域の光のみを通すフィルターを用いて検出感度を上げ、ライマンアルファ輝線の有無によって天体を特定し、遠方にある銀河を見つけ出す方法は、非常に有効でした。研究チームは、光が地球に届くまでにおよそ 153 億年もかかるような、これまでに知られている最も遠い銀河を探すために、マウナケア山頂にあるケック望遠鏡を使いました。

 フー教授と研究メンバーは、より暗く遠方にある銀河を調べるため、重たい銀河の集団が背後にある天体の光を増光させる『重力レンズ効果』を用いることにしました。アインシュタインの一般相対性理論によると、非常に重い天体は巨大なレンズのような役割をして、より遠方にある天体が発する光を曲げて像を結びます。研究チームは、距離 60 億光年にあって、中心部に銀河数百個分の質量が集中している銀河団 Abell 370 が、距離 155 億光年の背後にある銀河の光を増光させている様子を観測しました。

 その後に、同じケック望遠鏡によって得られたスペクトルから、この銀河が実際にライマンアルファ輝線を強く放射していることを確認しました。

 「この輝線を見ることができるということは、重大なことです。」とハワイ大学の大学院生で研究チームのピーター・キャパックさんは言います。「もしわずか数個の銀河しかこの場所で活動を開始していないのならば、周囲にある水素ガスの吸収による影響によって、輝線が観測されなくなります。」

 またハワイ大学の天文学者で研究チームのレン・カウイさんは「これが銀河であって、クエーサーではないという事実も、非常に重要なことです。中性ガスは、宇宙の中の霧のようなものです。多くの銀河が生まれると、その光は霧を一掃します。クエーサーはまれな天体ですが非常に明るいため、霧を突き抜けてでも見ることができます。しかし、より暗いけれども極めて数の多い銀河が発する光が私たちに届くということは、初期の星形成が非常に活発に起こっており、大部分の霧はすでに消失していることを意味するのです。」

 今回発見された銀河の赤方偏移は 6.56 であり、宇宙が誕生しておよそ 7 億 8 千万年後に生まれました。つまり遠方にあるクエーサー (赤方偏移 = 6.28) よりも 5000 万年前、また宇宙の再電離があったとこれまで考えられていた時期 (赤方偏移~ 6.1) よりも 8000 万年前です。

 このような銀河から届く光は、赤方偏移によってほとんど全部赤外線になってしまいます。研究チームは、ケック望遠鏡と同様にマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡を用いて、星形成の割合を見積もるために赤外線による追観測を行ないました。その結果、一年間に太陽 40 個分の新しい星が誕生していることがわかりました。

 「生まれたばかりの銀河を検出して、どのように進化していくのかを見たいものです。宇宙の年齢を人間の寿命に例えるなら、今回捕らえた銀河は赤ん坊です。これまでの写真が 4 歳の誕生日を迎えたばかりの子供の銀河だとすれば、今度のは 3 歳半の銀河の写真でしょう。」と、フー教授は言っています。

 「今回の成果は、今後 10 年間の内に打ち上げが予定されている次世代宇宙望遠鏡に向けたよい知らせとなるでしょう」とフー教授は話しています。「地球大気が発する夜光よりも高い軌道にある大型宇宙望遠鏡に、高性能の赤外線検出器を搭載すれば、このような宇宙遠方の銀河がたくさん輝いている姿が見えるでしょう。」

 画像と追加の情報 (英語) は、次のウェッブサイトにあります。

 http://www.ifa.hawaii.edu/~cowie/z6/z6.html

 本研究は、4 月 1 日発行のアストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されています。  

 

 

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