観測成果

遠方に存在する7個の新しい超新星を発見

2001年7月12日

 すばる望遠鏡により大きな赤方偏移の超新星を探査しているグループは、7 個の新しい超新星の発見を 6月21日に報告しています (IAU サーキュラー No.7649)。それらは非常に暗く (肉眼で見ることのできる最も暗い星よりも 500 万分の1 暗さ)、また非常に遠方 (地球に一番近い巨大銀河アンドロメダ銀河メシエ 31 までの距離の少なくとも 1000 倍以上も遠い) に存在していることが確認されました。これだけ多くの超新星を一度に発見できたのは、すばる望遠鏡の主鏡が 8.2m と大口径であり、また Suprime-Cam という広視野のカメラを備えていることによります。

 超新星爆発は、太陽の 10 億倍以上の明るさで発光します。その現象は、非常に遠方にある場合でも見ることができます。また明るさの最大値はかなり正確に予想することが可能なため、爆発があった銀河 (母銀河) までの距離を正確に計る際の「標準光源」として利用されています。つまり、宇宙の構造や進化を研究する上で、距離を知る重要な手がかりといえるのです。今回と同様な超新星についての最近の観測成果からは、ビックバン後に宇宙が膨張していく様子を再考する必要性のあることがわかってきました。

 このような研究を進めるために必要となる、十分に遠方にある超新星を発見するのは容易なことではありません。超新星は、わずか一ヶ月間ほど明るく輝くだけであり、またまれにしか現れない天体であるためです。例えば、私たちの銀河系(天の川銀河) では、数百年間の間にわずか 1 個ないしは 2 個の超新星が出現するだけです。研究チームは、星からくる光を集める能力が非常に優れた観測装置 Suprime-Cam を すばる望遠鏡に取りつけ、遠方にある何十万個もの暗い銀河を撮影しました。それらの銀河に超新星が現れているかを見るため、1ヵ月後に 1時間の露出時間をかけて同じ領域を撮像し (図1),23個の超新星の候補となる天体を発見しました。これらの天体が本当に超新星であるのかを確認し、また赤方偏移を測定する目的で、研究チームはすばる望遠鏡に観測装置 FOCAS を取りつけ、数日後に 8 個の候補天体のスペクトルを取得しました (図2)。この観測の結果、7個が超新星であることを確かめ、また 5 月下旬の発見時の明るさは 22.8 等級から 24.3 等級、赤方偏移は 0.2 から 1.0 ということがわかりました。赤方偏移が 1.0 の天体は、宇宙が約 135 億年前に誕生したときからわずか 40% の時間しか経っていない姿を見ていることに等しく、また地球からの距離は約 80 億光年であることを意味します。これまでに発見されている赤方偏移が 0.9 よりも大きな超新星の数は、今回発見した 3 個を含めて、12 個が報告されています。

 超新星は、それぞれに特有な光度の変化やスペクトルを示すことから、いくつかのタイプに分類されます。宇宙論を研究する上で、最も適しているのは Ia 型と呼ばれる超新星です。このタイプの超新星は、本来一番明るく、また最大の光度は極めて均一な値になります。今回発見された7個の超新星のうち、6個は Ia 型でした。

 中程度の質量を持つ星 (太陽の質量の数倍まで) は、進化の最後の段階になると、中心にある核を残して外側の物質は失われていきます。残った核は何十億年もかかって作り出された炭素や酸素の「灰」からなり、非常に高温で高密度ですが、内部で核反応を起こすには不十分です。かりに連星の中にこのような死んだ星があると、他方の星が最後を迎えたときに表面から失われる物質は、先に死んだ星に捉えられます。先に死んだ星の質量が、すでにチャンドラセカール質量限界 (=死んだ星が自分の重力に打ち勝って核を支えられる限界の質量。太陽の約1.4倍) に近ければ、新たに物質が降り積もることにより、質量が増えてその限界を越えてしまい、自分の重さで星はつぶれはじめます。その結果、星の中心部の密度は急激に上昇し、再び核反応が起こりますが、これが非常に激しいため、死んだ星は一気に爆発してしまいます... これが Ia タイプの超新星爆発です。

 この研究は、超新星宇宙論プロジェクトの一環として行なわれました。今回の超新星探査グループのメンバー:土居、古澤、仲田、大内、安田、宮崎、柏川、小宮山、大山、八木、青木、Hook、Perlmutter、Aldering。


図1: 超新星 SN2001cv の最初に撮像した画像と発見時の画像。背景の画像は、Suprime-Camがカバーする一視野の約 3% (5x7分角)。拡大図の一辺は約10秒角。



図2: FOCAS による超新星 SN2001cv のスペクトル。横軸は観測波長 (単位はオングストロームで、1オングストローム=10-10 m)。青い線は、今回観測した超新星のスペクトル。濃い黒い線は、比較のために、近くにある (より明るい) 超新星のスペクトル (Kirshner et al., 1993, ApJ vol. 415, p. 589 を参照)。超新星は非常に暗いため、FOCAS のデータには母銀河の影響と多くのノイズが含まれているが、この新天体が超新星 (Ia 型) であることは十分示されている。母銀河の輝線の測定から、赤方偏移は 1.039 と測定された。

 

 

 

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